お医者さんで綱渡りする

 医者の人数を増やせ、なんて議論がある。仕事がきついからだそうである。医者というのは当たり前のように夜勤があり夜勤明け勤務もある、働き方改革とは一線を画す職業と言える。病院側も新しい人間を雇用するのを嫌がって、本来医者がしなくて良い業務も医者に押し付ける、なんてこともある。

 しかし単に医者が増えてくれるとこの業界の最後尾をうろちょろしながら食いっぱぐれないようそこそこ稼いで生きていきたいという自分みたいな層にとっては真にありがたくない。医者が増えるということは競争者が増えていくことを意味する。競争者が増えるとどこにでもいる規格化された無能の価値は極端に下がる。また最早有能でも供給過多になると賃金は下がってしまうのでこれもありがたくない。時給が安いのは何よりめっきりやる気も落ちる。まあ今の時点でも安すぎるのだけれど。

 人数が増えると競争者が増えるというのは常に難点としてある。どの業界でも、である。ある程度増えてくると今度は自分を差別化して他人と違う側面で競争していることをアピールせねばならない。希少性に訴えて価値を高めるのである。医者の場合は顧客が減っているからアメリカの医師国家試験だの留学だの、盛んになってきた。かつての日本医療が閉じていたのではなく、今の日本医療市場が従事者にとって限界だと思われ始めているのである。

 公にする、公平にする、開くということは一見正しいことであるが、既に内部に所属している人間にとっては余計な外敵に当たりやすくなるということでもある。慎重に生きていかねばならない。

 

楽に稼ぎたい たかたか。